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地球船クラブ顧問団のほか、有識者、全国各地で活躍されている団体や企業の方々に、環境に関して様々なご意見や見解を披露していただくものです。(投稿ご希望の方はこちらより。掲載については当事務局の判断によりご期待にそえない場合もございます)


環境リスク

日本水処理業界の地球貢献

〜地球温暖化防止対策のCDMを
 遅れている世界の衛生対策と結合することが
 日本水処理業界の地球貢献〜


1、はじめに

 日本の上水道、下水道、電気、ガス、鉄道……現在社会を支える文明はどれをとってみても、「石油が安い」という前提の上に成り立っている。したがって、石油が高騰している現状を分析すると石油探査の専門家が指摘するように、オイルピーク(年間原油産出量の最大値)が2005年であった事実を、深く受け止める必要がある。今後石油生産が40年続くとしても、年間産出量は漸次減少し続ける。そのことは、長期的石油値上がりが不可避であることを示している。上下水道事業は、電力依存の事業である。この事業の将来は大きなエネルギーリスクを持っていると言わざるを得ない。
 水道事業は、安全、良質の飲料水をパイプラインで供給するサプライ事業であるが、下水道は、水や汚水に含まれた有機物やその他を回収するシステムである。その有機物のうち、特に「屎尿」に注目してこれからの展開を考えると、エネルギーリスク軽減の新たな方向性が見えてくる。


2.JICAによるヴェトナム水道衛生対策無償支援に参加して

 私は長年、スエーデンエコロジカル研究所グループと協力して、発生源で屎尿を分離するトイレの普及を提唱してきたが、現在、グローバルな視点に立つと、このエコサントイレ(エコロジカル・サニテーションによるトイレ)が、途上国で徐々に受け入れられ拡大していることが、報告できる。
 2007年、JICAがヴェトナム政府の要望を受けて無償供与の水道衛生事業を進めているお手伝いを行なった。これは、南ヴェトナム沿岸地方のコンミュン(村単位を呼ぶ)が、水源に恵まれないことから集落水道が無く、また家庭にトイレが存在していない状態を改善する事業である。水源として地下水を掘り、水質水量の安全性を確認して、浄水場、ポンプ施設、水道管敷設を行い、衛生対策として村の小学校にエコサイントイレを設置し、近くの農家にトイレの管理を依頼するものである。
少数民族の人たちは、ヴェトナム戦争が終わるまでは、山岳民族で焼畑農業者であった。移動しながら農業を行なうことから、トイレを使用する習慣が無く、山岳森林破壊を防止するため低地に強制移動され、政府からレンガ建築の住居をあてがわれたが、敷地内の浅井戸は、質量が不十分であり、住居内にはトイレがなく、敷地内の不定場所で、排泄を行なっている状況である。水の不十分さから衛生観念が発達していない。衛生教育をどのように子供達に行なうか? 安全な水の供給により、手洗いの励行、排泄物の安全で資源回収の方法の教育が、必要となっている。
JICAの無償支援事業は、エコサントイレの普及に限界がある。日本国民の税金で、ヴェトナムの少数民族の一軒一軒のトイレを設置することは出来ない。トイレは、あくまで個人の家庭のものである。このような原則の下で、どのように衛生教育を実施するか?JICAやその他国連機関の公的支援の限界がることを認識する必要がある。
そこで、今回のJICAヴェトナム支援は、公的機関である小学校のトイレを改造し、尿の農業利用、便の乾燥殺菌農業利用を実行してくれる協力農家(2軒ほど)のトイレに試験的エコサントイレを設置する方式を検討している。実際に、エコサントイレが、農業として効果があること、衛生対策として有効であることを示して各家庭で真似てもらうことが目的である。しかし、その後に農家が屎尿分離トイレを導入する費用は負担できない状態である。屎尿分離トイレの現地建設費は、恐らく安く見積もって7,000円程度であるが、彼らの月収入は、3,000円以下である。ここにトイレ無き人口の現実がある。


3.国連ミレニアム開発目標の水道衛生対策の絶望的状況

2001年に国連は、ミレニアム開発目標を決めた。その中で、ターゲット2010−2015年までに、安全な飲料水及び衛生施設を継続的に利用できない人々の割合を半減する。
30.浄化された水源を継続して利用できる人口の割合(都市部及び農村部)。
31.適切な衛生施設を利用できる人口の割合の改善を提示している。
世界人口63億人のうち、トイレの無い人口は24億人と推定されていて、半減するには、12億人にトイレを設置する。2015年まで残された8年でこの約束の数値が達成できるかどうか?これから毎年3,000万戸の家庭にトイレを建設して、2.4億戸建設し、12億人に達する。税金を基礎とする、JICA、世界銀行や国連組織の支援だけでは、ミレニアム開発目標達成は絶望的である。しかし、先進国の支援、協力の努力が求められている。
2007年は、人類にとって重要な年である。それは、都市人口が農村人口を超えた年である。このことから国連人間居住計画議長は、人類がホオモ・サピエンスからホモ・アーバノス(都市居住者)になったと宣言している。このことは、都市の衛生対策が益々重要になってくる。都市スラムの非衛生的状況の改善は進まず。スプロール化が進み都市インフラ整備が益々困難になっている。とりわけ屎尿対策がなく、腐敗槽(セプテックタンク)が設置され希釈のみ殆ど無処理で、運河や河川に放流されていて都市河川の汚濁状態は深刻である。下水道整備は、一つの解決策であるが、途上国において実施するには建設費用と技術、人材の準備不足状況からは、先進国の状況に達することは、100年かけてもほぼ絶望的である。それでは、国連ミレニアム目標が達成できない。知恵を働かせる必要がある。


4.日本はどのような解決をしてきたのか?

日本は、世界でも類の無いバキューム車による屎尿回収、屎尿処理施設で都市の非衛生状態を改善してきた。太平洋戦争が終わるまで、日本の全土において屎尿を回収し、完全な窒素、リン、カリ、有機物循環系を実施してきた。このシステムが崩壊するのは、アメリカ進駐軍が導入した化学肥料が契機である。進駐軍は当時アメリカで流行しだしていた生野菜を食べるサラダを食事メニューに入れるには、屎尿利用の野菜栽培で回虫卵の汚染状況があるため、化学肥料導入を義務づけた。これが契機に、また日本でも化学肥料製造が始まったことで、日本農家が屎尿回収を止めたことから、政府、自治体が新しい「都市清掃法(1954年)」に基づき、屎尿処理制度を導入した。
この技術が後ほど海外移転されたのは、台湾、韓国の一部であり、タイの一例である。日本の方法は、屎尿「処理」の方向で発達した。 臭くて、扱いに困る排泄液体固体を処理処分し、処理水として排水する方法を徹底して開発してきた。その結果屎尿処理技術は、BOD、窒素、リン、大腸菌群数の処理指標において、世界のどの下水処理技術より先端を走る優れた方式となった。高分子分離膜を活性汚泥処理に導入したのは、日本の屎尿処理施設が世界で始めてである(1990年代初期)。現在欧米の下水処理場で、試験的に高分子分離膜、セラミック分離膜導入実験を行なっている。
しかし、日本の高度屎尿処理方式を、途上国に技術移転するのは、時代錯誤になる。地球温暖化対策の意味することは、脱石油社会に移行する方向である。屎尿を混合処理する方法は、これからの途上国には、明らかにふさわしくない。


5.地球を救う屎尿分離、回収資源化方式

屎と尿を分離するのは、資源をリサイクルがしやすいからである。尿はそれ自身で、窒素、リン、カリの植物三大栄養素を理想的比率で構成している液肥である。ナトリウム塩濃度が高いので、希釈なしに尿を野菜や穀類の栽培に適用はできない。栽培植物に応じて、必ず、また時と状況に応じて4−10倍希釈が必要である。また、二期作,三期作、二毛作、三毛作が可能なアジア熱帯地域では、尿の保存期間が短くてよく、すぐに利用可のであるが、温帯の冬季農業停止地域では、尿を加工して、窒素、リン成分を保存体にする必要がある。例えば、尿に塩化マグネシウムを添加すると、簡単にマグネシウム・アンモニア・燐酸が沈殿して優れた粉末体窒素、燐酸肥料になる。その技術特許は、わたしの所属した京都大学と(独法)科学技術振興機構が有している。尿のアンモニアは硫酸で回収して硫安になる。このように尿から、低エネルギーコストで窒素、リンを回収することで、化学肥料製造による二酸化炭素発生を削減できる。2006年中国は石炭から抽出した水素と空気中の窒素から製造するアンモニア肥料生産が、世界で1位の国になった。それまでアメリカが1位であった。中国の二酸化炭素排出量増加の原因の一つは、化学肥料製造にあり、結果として大気汚染、日本への酸性ガス、酸性雨の越境汚染に繋がっていている。また農業の大量に窒素化学肥料、燐酸化学肥料を使用することから、太湖はじめ中国の河川、湖沼の超栄養化の大きな原因となっている。河川湖沼の富栄養化問題は、中国、インド、南米、アフリカ等全ての大陸で起こっている地球環境問題である。富栄養化問題も解決と地球温暖化防止、衛生対策が明確に繋がっている。

屎は、メタンガスの資源として直接エネルギー原である。屎をバキュウム車で回収する事業について、10万人の人口で検討すると、メタン発酵施設の純メタンガス発生量は、約880Nm3/日、価格計算すると1Nm3=約30円(大阪ガスの家庭販売価格)で年間メタン生産価格は約900万円、10年間メタン発酵施設を運転すると約9億円になる。この費用は、集中メタン発酵施設の建設費を賄える。メタンガスは、二酸化炭素の21倍温室効果が高い。このガスを集めて家庭燃料、バキューム車燃料に使用することで、地球温暖化防止に直接貢献する。また途上国では、森林伐採の原因が家庭燃料取得であることから、メタンガス利用を有効に行なえば森林防止に繋がる。このように衛生対策をCDMに直接結合できる。欧米の環境専門家、衛生対策専門家は、バキューム車による分離した屎尿の回収という発想が理解できていない状態である。
現在日本が利用しているCDMは、中国など途上国の産業のエネルギー効率改善のために資金を提供しているが、本来途上国企業が自身で生産性を挙げて改善すべきところに、日本の企業の資金が導入されるのはおかしいという批判がある。
日本の企業の資金を途上国の貧しい農民や、都市周辺市民でトイレがない人達に、家庭毎に屎尿分離トイレの建設資金と公的集中処理施設の建設費用を提供することは、途上国政府が税金で出来ない衛生問題をも同時に解決することになり、まさしく一石二鳥の効果である。10万人規模の集落の屎尿処理に、9億円のCDMを調達することは、日本の企業にとって大きな負担ではない。恐らく日本企業のISO1400活動とその宣伝効果を考えても、高い買い物ではないと考えられる。
メタン発酵が終わった屎は、コンポストを行い良質な土壌肥料となる。
屎尿処理は。処理ではなくて資源回収に向かうのが21世紀の人類の道である。
また都市ゴミ問題も同様に、解決しなければならない課題であるが、途上国では無策放置状態である。紙面の関係詳しい解析は別の機会に譲る。


6.日本の下水道の将来

 すでに日本では下水道のパイプラインが人口の約70%に対して整備されているなかで、この屎尿分離トイレのアイデアは現実味がないと思われがちだ。今ある下水収集システムをすべて屎尿分離トイレに一気に変えることができるとは思われない。しかし、下水道区域外の200万人口の将来を考えると。新しい方向が見えてくる。まず合併浄化槽の不経済を改善するのに屎尿分離トイレの導入が考えられる。分離屎尿はバキュウム車で回収し、屎尿処理場あるいは下水処理場の処理機能を改善する。家庭の雑排水のみ規模が半減した合併処理処理槽―実質的には分離浄化槽で処理する。屎尿が無いことから、窒素、リンは自動的に70%削減され付近の河川湖沼の富栄養化対策になる。資源回収工場となった新しい施設は、家畜糞、家庭生ゴミなど有機資源と同時に発酵、資源回収が可能となる。
それでは、既存下水道の改善は、将来考えられないか?屎尿尿回収のパイプラインを新たに布設するような発想は現実的ではない。けれども、例えば既設のパイプの中に、消防ホースのようなものを引き込むだけで尿だけを収集することができる。尿だけ既存の下水道管を通して別に回収することは、将来のリン酸肥料資源枯渇に備える重要な方向である。窒素とリンとカリがバランスよく配合されている尿だけを集めることができれば、農業利用したり、あるいは問題となっている医薬薬品類の微量物質を回収して処理することも容易にできるようになる。これらは新しい技術開発課題である。
 そうやって尿を集める体制を整えても、今の農業施策の下では、窒素過剰供給になるだろう。けれども、21世紀後半に状況は変わる。もはや下がる見込みのない石油価格にあっては、輸入に頼っていては食糧難に陥ることは必至だ。農業を進める必要があると思うのは、我が国の食糧の自給率を上げることの他にも理由がある。都市に人口が集中する状況を変え、森林を手入れしてくれる人口を増やさないと、やがて森林が荒れ谷川が荒廃し、水源確保もままなくなると懸念するからである。


7.終わりに

地球温暖化防止対策の知恵を働かせる本質は、結局、石油依存型社会からの脱出である。日本の企業が購入する温暖化ガス排出権枠をCDMを通じて遅れている世界の途上国の衛生対策と結合することが日本水処理業界の地球貢献になる。同時に日本の将来を、下水道に関係する人々が真剣に取り組む段階にきている。
松井三郎

京都大学名誉教授
株式会社松井三郎環境設計事務所 代表
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